COPD

COPDはどんな病気なのでしょうか

喫煙者が罹患する代表的な慢性呼吸器疾患。タバコ炎を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより惹起される炎症による末梢気道、肺胞レベルの破壊、構造改変により閉塞性換気障害(末梢気道の狭窄により息が吐きにくくなる)を生じている。従来、慢性気管支炎や肺気腫などの病名で呼ばれていた。慢性気管支炎と呼ばれていた末梢気道病変(末梢気道の炎症により気管支壁の肥厚と粘性な痰の貯留)と肺気腫と呼ばれていた気腫性病変(ガス交換の首座である肺胞の過膨張により末梢気道を圧排)がさまざまな割合で複合的に形成され、これらの病変により末梢気道が狭窄し気流閉塞がおこる。
喫煙者の20%前後、ほぼ5~6人に1人が罹患する感受性を有しているとみられる。COPDの発病率は年齢や喫煙の暴露歴とともに増加し、高齢の喫煙者では約50%に、60packs-year以上の重喫煙者では約70%にCOPDが認められている。我が国の推定罹患者は500万人を超える(NICE studyの成績から、日本人の40歳以上の10.9%、約530万人、70歳以上では約210万人がCOPDに罹患していると考えられている)が、実際に治療されている人は数十万人。罹患を自覚しにくいため、喫煙し続けて重症化してしまうケースが多い。緩徐進行性で高齢者ほど罹患者が多い。厚生労働省の人口動態調査によればCOPDは死因の第10位に位置している。COPD死亡者の半数以上は80歳代が占めており、その傾向が著明になってきている。
また肺癌の合併が多く我が国では肺癌合併率は6%であった。COPDは喫煙と独立した肺癌の危険因子でありCOPD患者では肺癌のリスクが3~6倍高くなる。COPDの死因として肺癌は我が国の研究においては15%前後であった。

症状について教えてください

初期は無症状か咳、痰などがみられるのみで徐々に労作時の息切れが顕在化する。進行すると呼吸不全となり、安静時でも息切れがおこるようになる。
最も特徴的な症状である呼吸困難は、多少変動はあるが基本的に持続的で進行性である。早期には階段や坂道を上がるときに気づく程度であるが、進行すると同年代の人と同じ速さで歩けないことや、軽い体動でも出現するようになり、進行期には着替えや洗面などの日常の体動や安静時にもみられるようなる。
慢性の咳はCOPDの症状の1つであるが、患者は喫煙や風邪のせいと考えて軽視していることがある。咳は最初のうちは間欠的であるが、のちに毎日みられるようになり一日中持続することもある。一般的には痰を伴うことが多い。ただし咳がでにくいケースもある。
重症のCOPDでは喘息様の喘鳴(ヒューヒューという呼吸音)がみられることがある。喘息が合併していることにより喘鳴が生じるケースもしばしばある。
COPDが進行すると栄養障害による体重減少や食欲不振が出現する。
進行したCOPD患者は、しばしば急性増悪という息切れの増加、咳や痰の増加、胸部不快感・違和感の出現・増強などを認め急性期の治療が必要な状態になる。急性増悪は患者のQOLや呼吸機能を低下させ生命予後を悪化させる。増悪の原因として呼吸器感染症(細菌感染、ウイルス感染)と大気汚染が多い。進行したCOPD患者では血液中の酸素濃度の低下と二酸化炭素濃度の上昇がみられるが、急性増悪時にはさらにそれらが悪化することが多く二酸化炭素濃度の上昇により錯乱、傾眠などの精神症状をきたす場合がある。

診断と治療について

診断基準として

  1. 長期の喫煙歴など暴露歴があること
  2. 気管支拡張薬吸入後の呼吸機能検査で1秒率(FEV1.0/FVC;1秒間に吐き出せる呼気量を努力肺活量で割った値)が70%未満であること
  3. 他の気流閉塞をきたしうる疾患(喘息、びまん性汎細気管支炎、閉塞性細気管支炎、じん肺など)を除外すること
とある。

完全に正常化しない気流閉塞を証明するために、気管支拡張薬吸入後の呼吸機能検査で1秒率が70%未満であることがCOPD診断の必須条件である。一般臨床においてはまずはスクリーニング目的に呼吸機能検査を行い閉塞性障害があるか、さらに詳細な問診や胸部CTなどによる画像検査にてCOPDとして矛盾しないか、ほかの疾患を否定できるか確認したうえで総合的に診断している。
安定期のCOPDに対する薬物療法としては長時間作用性気管支拡張薬(抗コリン薬、β2刺激薬)の定期的な使用がある。重症例では抗コリン薬、β2刺激薬の両者を併用する。長時間作用性気管支拡張薬の使用によりCOPD患者の症状やQOLを改善し運動耐用能を向上させる。また必要に応じて短時間作用性気管支拡張薬を使用する。重症患者では入浴時などの日常生活のおける呼吸困難の予防に有用である。また喘息合併例には吸入ステロイド薬を併用する。
COPD患者は痰の多さや喀出困難を訴えることがあり喀痰調整薬により喀痰喀出困難を改善することができる。
呼吸リハビリテーションは、COPDの呼吸困難の軽減、運動耐用能の改善QOLの改善に有効である。上肢・下肢の筋力トレーニングを中心とした運動療法、呼吸練習などがある。
COPD患者では栄養障害が高頻度に認められ栄養管理も重要である。COPD患者では努力呼吸による酸素消費の増大が安静時のエネルギー消費の増大につながり同時に摂食調整ホルモンの異常により食欲低下がみられサルコペニアと呼ばれる筋量・筋力の低下・やせが目立つ。COPDの栄養障害に対して高エネルギー・高蛋白食の指導が基本である。たんぱく源としてはBCAAを多く含む食品摂取が推奨される。リン、カリウム、カルシウム、マグネシウムは呼吸筋の機能維持に必要である。また骨粗鬆症の合併頻度が高いため、カルシウム、ビタミンDの摂取も重要である。食事による腹部膨満感が問題となる場合には、消化管でガスを発生させる食品をさけできるだけ分食としゆっくりと摂取させ空気嚥下をさけるなど工夫を指導する。
血液中酸素濃度が低下している患者では在宅酸素療法を行う。一般的には酸素濃縮器と呼ばれる機器を自宅に設置し鼻カニューレ式の酸素チューブを長くのばし自宅内すべてで酸素吸入を行えるようにする。外出時は携帯型酸素ボンベを用いる。
血液中二酸化炭素濃度が上昇している患者では非侵襲的換気療法(NPPV)や一部の重症例では気管切開下陽圧換気療法(在宅人工呼吸療法)と呼ばれる補助換気療法を行う。非侵襲的陽圧換気療法とはマスクによる人工呼吸療法であり、一般的には夜間睡眠中を中心に装着することにより呼吸筋疲労の軽減や高二酸化炭素血症の改善、夜間睡眠時無呼吸による低酸素血症の軽減につながる。
インフルエンザワクチン、肺炎球菌ワクチンの使用により感染による急性増悪の頻度と死亡率を低下させる。
急性増悪時には、一般的に入院治療を行う。ステロイド全身投与、細菌感染(肺炎・気管支炎)合併時には抗菌薬を使用する。喀痰量増加に対しネブライザーと呼ばれる薬物をミスト状にして噴霧する機器を用いて去痰剤と短時間作用性気管支拡張薬を吸入し喀痰喀出を促す。低酸素血症に対しては酸素吸入により酸素化を改善させる。重度の低酸素血症、高二酸化炭素血症に対しては前述の非侵襲的陽圧換気療法や気管挿管下での人工呼吸管理を行う。

禁煙治療について

安定期の治療として最も大事なのはまずは禁煙である。非喫煙健常者でも呼吸機能は23~25歳をピークに経年的に低下するが喫煙者では急速な低下を示す。禁煙により呼吸機能の低下速度が健常者に近づくとされている。ニコチン依存は禁煙を妨げる最大の因子である。血中ニコチン枯渇に起因する離脱症状のストレスは、治療で用いられるニコチン製剤により緩和される。禁煙補助のためにニコチン置換療法と呼ばれるニコチンパッチやガム、内服療法があり禁煙外来を行っている医療機関で処方可能である。禁煙指導として、医師が短い禁煙アドバイスをするだけでも禁煙成功率が上昇する。前述にあるような肺年齢を使った指導や呼吸機能検査でのCOPD自然歴の説明、CT画像上の気腫性変化の説明などは禁煙の動機付けになる。