肺がん

疫学

 肺癌は日本人における癌死の第1位であり、発生率は50歳以上で急激に増加します。喫煙は危険因子の1つであり、非喫煙者に比べて喫煙者が肺癌になるリスクは男性で4.4倍、女性で2.8倍と高くなります。

診断

 胸部レントゲン・CT検査にて肺がんが疑われた場合、一般に気管支鏡検査を受けていただき組織診断を行います。気管支鏡検査にて診断困難な場合はCTガイド下肺生検(経皮針生検)や全身麻酔下の胸腔鏡下肺部分切除術などにより診断を行う場合があります。肺癌は組織分類にて、小細胞癌と非小細胞癌に分類されさらに非小細胞癌は腺癌、扁平上皮癌、大細胞癌に分類されます(図1)。組織診断にくわえて病期分類のために胸腹部造影CT、頭部造影MRI、PET/CTなどを行います。原発腫瘍のサイズ、リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無などによりⅠ期、Ⅱ期、Ⅲ、Ⅳ期に分類されます。主にⅠ期、Ⅱ期が手術療法、Ⅲ期が放射線療法+薬物療法、Ⅳ期が薬物療法を選択されます(図2)。


薬物療法

 殺細胞性抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害剤の3種類の薬剤から単独、あるいは複数の薬剤を組み合わせて治療行います。採取した癌組織を用いた検査により後述の癌の特徴(遺伝子変異、PD-L1など)を調べたうえで、患者さんの体力や希望にあわせてオーダーメイドで治療薬を選択しています。

【殺細胞性抗がん剤】
 嘔気、脱毛、血球減少、しびれなどの副作用をもつ狭義の抗がん剤です。複数の抗がん剤があり単剤あるいは2剤を組み合わせて治療を行います。さらに殺細胞性抗がん剤にVEGF阻害剤や免疫チェックポイント阻害剤を併用する場合があります。制吐剤などの補助薬剤の進歩により以前に比べてかなり楽に治療を受けられるようになっています。多くは点滴製剤(内服薬もあり)であり3~4週に1回(週1回や連日点滴の場合もあり)点滴を行います。当院では初回治療のみ2~3週間程度の入院で副作用の観察を行い2回目の点滴からは外来にて点滴を行っています(外来化学療法)。

【分子標的治療薬】
 ある特定の分子をターゲットとした薬剤です。腺癌の一部のタイプではドライバーミューテーションといわれる特定の分子に遺伝子変異を有しておりその分子を介した増殖シグナルに依存して増殖する特徴をもっています。その分子をターゲットとして特異的に阻害することにより効果を発揮します。最も代表的な分子がEGFR(レセプター)で腺癌の約半数がEGFR遺伝子変異を有しているといわれておりEGFR阻害剤が奏功します。そのほかALK、ROS1、BRAFなどの遺伝子変異を有する肺癌に対する薬剤があります。採取した癌細胞における遺伝子変異の有無を検査することによりこれらの薬剤が使用できるか判断します。

【免疫チェックポイント阻害剤】
 癌細胞表面のPD-L1と免疫細胞表面のPD-1の経路を介して癌細胞は免疫細胞からの攻撃を抑制する性質を持っていますが、PD-1/PD-L1経路を抑制することにより免疫細胞を活性化し癌細胞を攻撃しやすくすることにより治療します。採取した癌組織におけるPD-L1発現の程度を検査することにより免疫チェックポイント阻害剤の効果がより期待できるかどうかを調べます。