抗酸菌症のお話

抗酸菌症(結核と非結核性抗酸菌症)

病原微生物が人体に障害を起こした状態を感染症と言います。病原微生物には、ウイルス、細菌、真菌、原虫などがあります。細菌が起こす感染症の中で結核菌による結核症は、今でも単一の細菌によって起こる感染症の中で最大のものです。2005年度の結核の新登録患者数は日本全体では、28,319人。人口10万対罹患率では、22.2でした。徳島県では24.1で全国平均よりは少し高めでした。
結核菌は、抗酸菌属という細菌の仲間の一つですが、抗酸菌属には、結核菌以外に、非結核性抗酸菌やらい菌などがあります。非結核性抗酸菌によって起こった感染症が非結核性抗酸菌症です。
主な抗酸菌属

非結核性抗酸菌症は昔から存在した病気だと思われますが、結核に似た症状・病態だったので、結核が多かった時代には混同して考えられていました。しかし、結核菌とよく似ているが別の病原菌を原因とする病気であることが分かり、40年ほど前から「非定型抗酸菌症」と呼ばれるようになりました。近年は「非結核性抗酸菌症」という呼び方が一般的になり、次々と新しい非結核性抗酸菌が発見され、罹患率も増加傾向にあります。
非結核性抗酸菌は、約80種類が発見されていますが、人に病気を起こすのは15~20種類程度です、一番多いのが、アビウム、イントラセルラーレの二種類で、合わせてMAC(マック)と呼び、70~80%で、次いで、カンサシーという菌が15~20%で、その他の珍しい菌種が5~10%の割合で見られます。
結核菌は人に寄生する細菌(結核菌自身は環境中では生存できない)で、人から人に感染しますが、非結核性抗酸菌はもともと土や水など人間の身近な環境に生息していて、人から人に感染することはありません。また、非結核性抗酸菌症が進行して結核になることもありません。
非結核性抗酸菌は、自然界に普通に存在しているので、だれにでも感染の可能性があります。しかし、感染(病気がうつる)と発病(病気になる)は、全く別のことです。結核の場合でも感染を受けた人の10%しか発病しないといわれていますが、非結核性抗酸菌は、結核よりも毒力が低いと考えられているので、ほとんどの人は、たとえ感染しても発病しません。しかし、肺に病気を持っている人(肺結核の後遺症、肺嚢胞・気管支拡張症など)、エイズ患者、手術後などで体力や、体重の激減した人、は発病の危険が高いと思われます。また、はっきりした原因がなく発病する人もいますが、やせて神経質でストレスを多く抱え込みがちな人に多いようです。
非定型抗酸菌症の主な症状は、咳・痰・血痰、全身のだるさ、微熱、体重減少などですが、何も症状がなく検診などで発見されることもあります。確定診断のためには、喀痰からの菌検出が必要です。しかも、非結核性抗酸菌はもともと自然界に存在するので、痰の中に偶然は入っている場合もあるので、複数回の菌検出が必要です。(結核の場合は1回でも菌が見つかれば診断は確定します。)
喀痰検査には(1)塗抹検査、(2)培養検査、(3)核酸増幅検査、(4)DDHマイコバクテリアがあります。

(1) の塗抹検査は、ガラス板に痰を塗って、顕微鏡で菌がいないかどうか調べる検査です。即日結果が出ますが、痰の中の菌量が少ない場合は、菌がいても陰性になります。また、陽性になっても結核菌と非結核性抗酸菌の区別はつきません。
(2) の培養検査は、試験管の中の培地(固形培地と液体培地があります)に痰を入れて、培養します。顕微鏡で見えないぐらいの少量の菌でも、生きた菌がいれば培養陽性となります。培養には時間がかかり、3~6週間かかります。ここで陽性になってもまだ、結核菌と非結核性抗酸菌の区別はつきません。
(3) の核酸増幅検査は、痰の中の菌の遺伝子を使って、結核菌か非結核性抗酸菌かを判別する新しい検査法です。この検査は、喀痰以外にも、胸水や、胃液や尿などの臨床材料でも検査できますし、?Aの培養で得られた菌(コロニー)でも検査できます。この検査で始めて結核か非結核性抗酸菌かの区別ができます。しかし、この検査でも結核菌とMAC以外の抗酸菌は判別できません。
(4) のDDHマイコバクテリアは、核酸増幅法によるコロニーを使った新しい検査法で、18種類の抗酸菌種の判定ができる同定法です。カンサシー菌はこの方法でしか同定されません。この検査でも同定できないような珍しい菌は、さらに精密な遺伝子検査が必要になります。

以上のように、抗酸菌が陽性(ガフキー?号、抗酸菌塗抹・培養陽性)と言うだけでは、結核か非結核性抗酸菌かの区別はつきません。ですから、本当に結核か、非結核性抗酸菌かを区別するにはある程度の時間が必要になります。
治療についても、結核と非結核性抗酸菌症では、かなりの違いがあります。結核の治療は、結核専用の優秀な薬が開発され、標準治療によって治癒させることができます。

抗酸菌標準治療胸部XP上、有空洞例・2ケ月後培養陽性例・糖尿病例はHRを9ケ月まで用いる。

それでも毎日確実に3~4種類の薬を、6~9ヶ月間の服薬が必要ですし、結核菌に薬剤の感受性があることが前提になります。非結核性抗酸菌症でも、カンサシー菌によるものでは、抗結核薬で治癒させることができます。しかし、それ以外の非結核性抗酸菌症では、この治療の目的で開発された専用の薬はありません、結核や一般細菌に対する薬を代用し、幾種類かを組み合わせて使用します。
DDHマイコバクテリア(代表的な同定検査)主な治療薬例治療期間も年単位(2~3年)と長期になります。病気の進展をある程度抑えることはできても、完全に治癒させることはできません。そのような理由で、MAC症で自覚症状が乏しく悪化もしない場合は、治療するかどうかが問題となります。幸いこの病気は進行がゆっくりしていますから、悪化が見られなければ服薬治療せず経過観察を続けることもできます。空洞などがあって、排菌が止まらず、病変が限局していれば、外科手術も治療法の一つになります。
非結核性抗酸菌症は、日和見感染症の一つです。日和見感染症とは、普通の健康な人では感染症を起こさないような弱い病原体が原因で発症する感染症です。身体の抵抗力や自然治癒力が病原微生物の増殖を抑えられなくなると病気は進行・進展します。薬物療法や外科治療は、病原体を取り除く方法ですが、自然治癒力を増強することはできません。
自然治癒力を増強するには、毎日の生活を整えること、身体の歪や食生活、精神生活の歪を正すことが必要になります。

(1) 早寝早起きをして、規則正しい生活を送る。
(2) 食事は、少量でも栄養バランスの取れた食事をする。過食や偏食をしない。
(3) ストレスをため込まないように、人生に生き甲斐と感謝を。
(4) 身体の歪を取るためのストレッチと適度な運動。腹式の深呼吸。
言葉で書けば簡単ですが、実際に実行するのは難しいかもしれません。でも、この難病を克服するためには、100%でなくてもこれらの日常生活の改善を目指して努力する必要があります。
この文書は、財団法人結核予防会発行の『マンガ、よく分かる非結核性抗酸菌症』を参考にしました。